Substitute 
 
 
 
 
「ひょ―ご立派」
「そりゃ、ね」
 山と詰まれた貢ぎ物を前にポップが呆れた表情で評すると、レオナは嬉しそうでもなく、楽しそうでもなく、誇らし気でもない、微妙な表情で自慢気に胸を張る、という器用な事をしてみせた。
「嬉しくねぇ?」
「嬉しいわよ。こ〜んなたくさんの贈り物。心がこもっているのもあるし?」
あるし、ねぇ」
 明らかに含みがある言い回しである。が、言いたい事がわからぬわけでもない。誰しも無償(極たまに例外はあれど)で動きなどしないものだ。 見返りがあるからこそ尽くしもするというもの。王族相手、しかも勇名・知名と名高く容姿端麗眉目秀麗、清廉かつ高潔な人格と絶対的なカリスマ性――と賛辞の言葉が目白押しな若き女王に対して何ら下心の無い男はそうそういないだろう。
 そして愚かしい判断ではあるが、ただ年若いというだけでくみ易し・・・・と判ずる手合いも居る。 うまく手なずけて美味い汁を吸おうという輩が少なくもないわけだ。 高価で上等な品であるのが包みの上からでもわかる品々からは、そこにかけた意気込みもまた感じ取れる。
「ほとんどワイロでしょ」
「そりゃまあ・・・・格好の機会だしな」
「自己アピールの」とウインク混じりに付け足すとレオナは「その通りよ」とばかりに肩を竦めてみせた。
 道端に咲く花一輪。または丹精込めて育てた果実か何かであった方が、素直に喜びを表す事ができただろう。善意と好意が全くないとは言い切れないけれど、打算が見え隠れする品では喜びも半減以下だ。
「――で、送り返すんか?」
「それも一つの手だけれど。御礼状ばかりでなく後々まで御愛想笑いを浮かべるの考えると受け取らないのが正解に思えるのよね――」
「だけど?」
「そうっ!『だけど』なのよっ!こんなふうに勝手に送りつけられてきた品で本当に嬉しいプレゼントまで断らなきゃいけないのは間違ってるわよね!」
「――って言われてもなぁ。それが嫌なら受け取るしかねぇだろ?それこそ全部をだ」
 ばっさりとポップが無情に言い切るとレオナは駄々っ子のように腕を振り回して小さな癇癪を起こした。
「ああああ〜面倒くさいぃ〜」
「ご愁傷〜さん」
「何よっ!他人ごとみたいに!ポップ君だって明日は我が身よっ!!」
「俺ぇ?俺買収してなんになんのよ」
「なーに言ってんだが。大魔道士さまがね?」
「呼び名は立派だが、実質実があるわけじゃねぇし、・・・・そんだけだろ?」
「わーかってないわねぇ。世界で一番の力を持った魔法使いを味方にできれば、無敵よ?しかも相手はお調子者でちょっと転がせば簡単に手懐けられそうで・・懐に入れたいって人が手薬煉ひいて伺ってるわよ」
「――俺もなめられたもんだなぁ」
「そう見せてるポップ君自身が悪いんでしょ。あぁ、女性に弱いっていうのは事実だし、結構有名なウィークポイントよね。 ポップ君の誕生日にはきっと色っぽ〜くて艶っぽ〜いおねーさんが扉の前で気合入れて待ち並んでるわよ」
「いやそりゃそーいう特別な日ばっかじゃないし」
 お約束の合いの手とばかりに反論するが、ポップのその言葉は否定ではなく肯定だった。
なーんですってぇ?」
「・・・・・怒んねぇでくれよ。しょーがねぇだろ?俺が呼んだわけじゃないんだし・・・・場合によっちゃ特使として行った先で「さぁて寝るかー」てベッドに潜り込もうとしたら裸の美女がスタンパイ中――とかな」
「あっきれた。お盛んなのね」
「おいおい濡れ衣だぜ。毎度丁重に御帰り願ってます。場合によっちゃベッドは諦めて窓から逃亡」
「――どーだか」
「信用しろよ」
「知らないわ」
「――ったく。俺にんな甲斐性あるわきゃねぇだろ」
 白々とした視線で見られるのに耐えかねたポップが、本音を思わず漏らすとこれは何故だか効果があった。
「あ、なんか今ので納得した」
「・・・・・・(んなろ)・・・・・ともかく、俺はそーいうの遊びでできねぇし」
「純愛だものねー」
「そーおーでーすーよ。片思いでも浮気だろ?意味合い的には」
「そうね。ポップ君のそういう所は、嫌いじゃないわ」
「へーへーありがとさん」
 抜群の頭脳と勘の良さで、公私共に絶妙のパートナーとされているポップとレオナであるが、周囲が期待しているような関係にはなっていない。 お互い胸に秘めた人物がしっかりと存在しているからだ。月日の流れも何もかも、二人の心を変える事はなかった。
 とはいえ、お互いがお互いを大切な存在としている事は間違いない。男女間に置ける友情というものがこの二人の間には成り立ち確立されているのだ。 似たもの同士であるという特徴も幸いにして同族嫌悪には陥らず、むしろ互いの信頼を深める事に役立っている。
「ところで、私達って友人関係よね」
「立場上は上司と部下じゃねぇ?女王様の僕だろ?」
「・・・・・にっくらしい言い方するわね――」
「減らず口が俺の持ち味だからな」
 むっとにらみつけてくるレオナを軽くいなし、ポップは意地悪気な笑みでにやにやと笑った。そして突然その表情をくるりと改める。
「――で、何が言いたいんだ?」
「・・・・・・いきなり変わるのよね。ポップ君って」
「自分のペースに巻き込みたいときゃ有効な手だ」
「覚えておくわ。それでさっき中断された事はね、ポップ君は友達にプレゼントを贈ってくれもしないケチな男なのか聞きたかったの」
「おいおい。さっきあの貢物の山でうんざりしていたのはどこの誰だ?」
「それとこれとは別。お菓子と食事は別腹。親しい人からの祝いは嬉しい物なんだけど」
「それで催促すんなよな―。ま、用意してない事もないけど」
「本当っ?」
 ポップの言葉にレオナの顔に喜色が浮かんだ。近頃なかなか見れなくなった年齢相応の少女の笑みである。
「・・・・んなに期待されるようなモンじゃねぇけど・・・・宝石とかの類は今更だし俺の趣味も上等じゃねぇから、ま、気持ちだけは込めた」
「――人形?」
 何処に隠し持っていたのか忽然と現れた包みを受け取ったレオナはそのまま不思議そうに首を傾げる。 軽さと手の感触からいくとそんな所かとあたりがついた。
 女子供には菓子か花か人形。そんな定番を地でいくポップに「まぁそんなものよねー」と安堵する心も少し。 これでいやに女性の扱いに手馴れたように行動されたらそれはそれでレオナにとっては複雑だったりする。
「お人形貰うのなんて何年ぶりかしら。まさか子供扱いしているわけじゃないわよね?」
「しないしない」
 ちろん、と伺うような視線にポップはひらひらと手を振った。 レオナとしても本心は嬉しい癖にそういう事を口にせずにはいられないあたり、つくづくポップ同様天邪鬼である。
「・・・・・・えーと・・・・・・・・・・・・・・・・」
「けっこ、特徴掴んでんだろ?」
「・・・・・・もしかして手作り?」
「あたり。『気持ち込めた』って言っただろ?こーいうのは結構得意なんだ。アバン先生仕込み」
「いいお嫁さんになれるわよ」
「レオナよりゃ、そうだろうな。料理も掃除も得意だし」
「立派な主夫にもなれるわね」
「おお、当然。引き取り手がいなかったら貰ってやってくれ」
「考えておくわ。・・・・・・・・とりあえず、ありがと」
「とりあえず、ねぇ」
 つけたしのような礼の言葉に、けれどもポップは気分を害した様子は見せなかった。何しろ言った当人のその表情と態度が言葉を大きく裏切っている。
 大切そうに抱えた腕にすっぽり入るぐらいの布製の人形。その見目形はいまだこの国に戻ってこない彼女の勇者の姿を形どったものだ。
「折角だからこの人形、抱いて寝てあげる」
「抱き枕にゃ最適かもな。手触りの良さは追求した」
「お気遣い、ありがと。・・・・よっく眠れそう」
「そりゃ良かった」
「もしかして、来年とかはこのお仲間が揃っていくのかしら?」
「催促か?」
「そうとっても良いけど―?」
「ふーん。・・・ま、ひとつだけじゃ寂しいよな。いっちょパーティ揃えっか」
 レオナのおねだり視線にポップは軽く胸を叩いて請け負った。来年以降、頭を悩ます必要がない、という己の利点も大きく作用している。
「・・・・・・一年にひとつ、ね。揃うまでに、戻ってくるかな・・・?」
「来させるんだよ。で、目の前でそいつに思いっきり甘えてやればいいと思うぜ」
「・・・・・・そうね。本物より可愛がっちゃおう!」
「・・・・・・可愛がるのか・・・」
 にぃっと悪戯っぽい笑みを浮かべるレオナにポップは苦笑を誘われつつ、ここにはいない親友たる勇者の少年に少しだけ同情の想いを向けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
[ date: 2005.07.29 ]
 
 根底ダイレオナかるポップマァムでレオポップ。にてほのぼの。
 
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