Short break  /1
 
 
 
 
「本日の業務終了!」
「へ?」
 突然書類の束を整理しだしたレオナはそれを脇に寄せると宣言した。
 その瞳には固い決意をみなぎらせている。勘の良いポップならずとも察しのつくレオナの今の心情を表す言葉は「もう仕事なんかしな〜〜いっ!!」――である。 そしてその予測は正しかった。まぁ、レオナをよく知る者にならば誰でもわかる事かもしれないが。
「働きすぎよ。私も、ポップ君も」
「否定はしねぇけど仕方ないんじゃねぇ?」
 人材不足の折だしなーとぼやくポップとてその表情には疲労の色が濃い。
 二人共若さで持たしているようなものだ。この年齢で仕事中毒というのもどうにも気が滅入る事ではある。
 平和が訪れる前は切った張ったの命懸けな戦い三昧。平和となった今では国政に追われて仕事漬け。何とも侘しい青春ではある。
「ね、そう思うでしょ?」
「ひとの考え読むねい」
 口元をひくつかせてポップは文句を言うが、別段レオナが読唇術に長けているというわけではない。考える事は一緒なだけだ。
 ほぼ同じ状況に置かれた同じ年頃の二人。またその秀でた能力もあって若年にも関わらず、1日の内に捌く実務の量といえば熟練の政務官の10日分にも相当する。
 それでもまだ自分の方が幾分マシかともポップは思う。君主の立場上なかなか自ら動く事ができぬレオナよりはまだ自由が効く、と言えなくもない。
 フットワークの軽さが強みのポップは、外交的な役目を担う事が多い。戦いの中でもさんざん各地を走り回ったのだ。
 また後の事を考えて、ポップは最後の決戦において共に戦ったフォブスターなどにルーラを用いて貰い、自らは訪れた事のなかった地にも足掛かりをつけておいた。 ルーラは便利な呪文ではあるが知らぬ地には行けない。
 トベルーラを使えば移動は可能であるが少しばかり時間がかかる。 危急の際にはその時間が命取りとなる場合があるのだ。そしてポップの判断は功を奏し、今現在もハプニカ国とそこに席を置く魔法使いの名声は日々高まる一方である。
「あーらごめんなさい。ポップ君がそーぉんなに働き好きだとは知らなかったわぁ〜」
「・・・・・そう言うなよ。俺の希望は悠々自適の隠居生活だ。細く長〜く生き延びて、師匠、みてぇな因業爺になって弟子を甚振るのが将来の夢だぜ?」
「わーやな希望」
「そういうレオナはどうなんだ?」
「そうねぇ。若く美しいうちにぱっと・・・なんてのはないわね。皺くちゃのお祖母ちゃんだって可愛いし。父さま、母さまの分まで長生きするつもりだもの」
「・・・・・・レオナなら婆さんになっても可愛いだろ」
「うふふ〜。ありがと。でもどうせなら今を褒めてくれる方が嬉しいけど?」
「はいはい。レオナ姫は可憐で果敢で思慮深く、繊細かつ大胆で、直視したら目が潰れそうな程お美しい方でゴザイマス」
「・・・・・・・・・なによ。それ。矛盾ばっかじゃない」
「そっか?主観だが、一応嘘はついてないぜ?」
 不満そうな表情で文句を言うレオナをにっと笑顔で交わす。そうすれば相手が黙りこむ事は経験上よくわかっていた。 笑みというものは男女を問わず有効らしい、と最近ポップは学びつつある。
「いいわ、もう。問題はそこじゃないし。蝋燭だって火が強いと燃え尽きるのも早いわ。このままいくと私達二人とも短い人生を堪能する間もなく大燃焼よ?」
「そりゃ有難くねぇ予想だな」
「でしょ?ついでにこのままいくとポップ君、伝説の大賢者さまって事になるわね」
「―――勘弁してくれって」
 当人にその気がなくとも周囲はそうとは見ない。結局の所、名声とは勝手に高まっていくものなのだ。悪名も、ではあるが。 やるべき事をやっただけ。大した事ではない、と謙遜してみても、他者から見ればそれは奇跡に他ならない。 そして人々の意識上、偉業を成し遂げる人物というのは勇者か賢者と相場が決まっている。 そんなわけでポップは大変不本意であるのだけれど、彼の名は《緑衣の賢者さま》として名が一人歩きしつつある。
 これはポップが緑の衣装を好んで身につける事に由来している。まぁ意識的にそれを利用している面もあるのだが。 ポップ=緑の法衣という印象を焼き付けておくと、目立たぬ衣装に身を包めば、半魔族のラーハルトのように特徴的な印象を持たないポップは気づかれなくなるからだ。
 実際、パプニカ国の大使として現れた時には上にもしたにも置けぬ扱いをされるものだが、身分を隠して一般人に紛れているとよく見えてくるものがある。 その事に理不尽な怒りを覚える程にポップは単純ではない。元々平民出であるのでそういうものだと割りきってもいる。
「ね、だから少しおやすみいただいちゃいましょうよ」
「・・・・・・・・う〜ん」
 誘いの声は甘く心揺らぐものではある。確かに業務はひきもきらない状態ではあるが、それはいつもの事であって結局の所全てを捌ききるなど到底無理な事なのだ。 働きづめで体を壊したら本末転倒である。それにそろそろレオナに息抜きさせてやらねぇとなぁ・・と考えていた頃合でもあった。
 そんな事をつらつらと考えていた時に、タイミング良く、というのか悪く、というのか人が現れる。これがまぁきっかけとなってしまうわけだ。
「―――姫さま、神官長が来月の即位の儀の段取りについておめどおりをー」
「ポップ君!今しかないわよ!」
「はぁ?!」
 ぐいとポップの襟をひき、窓の外へと身を乗り出す。姫のやる事ではない。
「姫さまっ?!」
 焦りの混じった声に気を取られている間も、浮遊感に慌てている暇もない。ポップはほぼ反射的に魔力を放出させ、落下を食い止めていた。
 ふわふわと、急激な落下速度が減速し、そのまま風に流れるように上昇していく。 その流れは心ならずも出口として使った窓の方から少しずつ離れていく方向であった。これではレオナの意志を受け入れたようなものである。
「さ、行きましょ」
「しゃぁねぇなぁ」
 にっと確信犯の笑みで笑うレオナにボップはマリンさん勘弁なー、と窓から見下ろすすかだに謝罪しつつ呪文を唱えた。
 
 
 
ルーラッ!
 
 
 
 凝縮した光の筋が生まれ、慣れた手順で頭の中の道筋を辿る。
 時間としては数秒にも満たぬ一瞬のうちにそれらは行われるのだ。
 どんっと隕石が落ちたかのような盛大な衝撃音を放ち、目的地へと辿りつく。
 その地は緑の匂いも濃い島の一角だった。
 
 
「いったぁ〜いっ!〜もうっ!少しは成長してよねぇっ!」
「文句言うなら自分で覚えろよ」
「できるならとっくにやってるわ。呪文の相性が悪いのよ。まいいけど。ポップにいつでも頼めるし」
「俺は便利屋かよ」
「そんな事思ってないわよ。私の『魔法使い』、でしょ?」
「・・・・はいはい。レオナさま」
 おおせのままに、と軽口で応じ、ポップは足元にこびりついた土を手で掃った。
 
 
 
 
[ date: 2005.06.04 ]
 
 レオナ&ポップのとある休暇(本人的には有給休暇)な一日。
 ――で、前編。・・・・・・・。ちと先になりますが今月内には続きを・・。
 
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