shall we dance ? 
 
 
 
 
「―――いや」
「・・・・・姫さま」
 きっぱりと容赦なく言い切る主君の言葉に、守役も兼ねている三賢者の一人であるマリンはがくりと肩を落とした。
 一度こうと決めたら決して翻さない頑固さを知っているだけに、どれ程懇願しようとも望む回答を得られないとわかっているからこそ尚更だ。 幼い頃から時には妹のように接してきた間柄ではあるものの、レオナは一国の主であり、マリンはその一部下である。強制力などないのだ。
(ああ、もうっ!やっぱりポップ君にお願いすれば良かった。彼ならばもしかすると姫様を言いくるめられたかもしれないのに――)
 などと嘆くあたりはパプニカ国家の主君と家臣の間柄が良好であるという事なのかもしれない。 国によっては国王などは神にも等しい存在とされ絶対君主として支配をしている所もある。 威厳という面ではレオナにも充分それは備わっており、そして歴史と伝統あるパプニカ国の格式はそっくりレオナに受け継がれている。
「私はダイ君が帰ってくるまで、ドレスでは踊らないって決めているの。別に出席しないと言っているわけじゃないんだから構わないでしょ」
「姫さま、そういう問題では・・・各国の皆様も貴族の若様達も今宵こそは姫さまの踊りの一手にと、血気盛んですのよ」
「あら、私ってばもてもてね―。でも、駄目。嫌なものは嫌。出来ない事は出来ないの」
「姫さまぁぁ〜っ」
 とうとう泣きが入る。女官達より説得役として全権を任されたマリンは、快諾を得て来なければ戻れないのだ。
「おいおい。あんま、マリンさんを困らせんなよ」
「―――ポップ君」
 突然、ひょいと顔を出した相手に驚きは感じない。常に彼は神出鬼没だからだ。今もふわふわと宙に浮かんでこちらをからかうような笑みを浮かべている。
「いつ帰ってきたの?」
「今さっきさ。ちっと壊れもん抱えてるから、ルーラじゃなくてトベルーラで移動してきた」
「あいっ変わらず着地下手だものね」
「愛嬌よ、愛嬌」
 そう返してふわりと高台に作られたテラスの上に着地した。緩やかなその動きにあわせて白いローブが静かに波打つ。さらりと黒い髪が肩から流れるように背中の方へと落ちた。
「ポップ君、髪伸びたわね――」
「・・・・・そっちが伸ばせって言ったんだろ。ったく鬱陶しくて仕方がねぇ。大体、願掛けなんて人に言われてやるもんじゃねぇし、願い知られてたら意味ないだろ?」
「大魔道士さまの麗しの漆黒の髪は勇者の帰還を願われているのだって、ロマン溢れる話よね〜。巷で女の子に大人気」
「あぁ?『姫様に負けないで!』とか『ポップ様を応援してますから!』なんて言われて楽しいと思うか?ったくロクな噂が流れちゃいねぇ。 こないだも後ろ姿見て女と間違えた奴がコナかけてきやがったんだぜ?あーもう切りてぇっ!!」
「駄ぁ目。こないだ、ねぇ。カールの国でもてもてだったんだ、ポップ君」
「・・・・・・・・・だから勘違いだよ。アバン先生が機転きかせてくんなきゃ、ひと騒動起こすとこだった」
「一般人相手に魔法攻撃は駄目よぉ。うまく流さないと。ポップ君持ち前のその口があれば軽いでしょ?」
「酔っ払い相手は話が通じねぇんだよ。男だとわかってからもベタベタ触ってきやがって、植え込みに連れ込もうとまでしやがるし、ったく何血迷ってんだか」
「それは大変ですわ。カール国へ正式に抗議の文を出すべきです」
「あーいって。一応収まったから。二度とはゴメンだけど。だから、こんな紛らわしい風体がまずいんだって」
「そうね―。果たして勘違いが理由なのかは不明だけどーポップ君の身の貞操は大事だから、次からはヒュンケルに護衛について貰いましょうか」
「はぁぁっ?何でアイツが護衛?必要ねーよっ!追っ払うだけなら一人で充分だし」
「それが不味い相手だったんでしょぉ?ヒュンケルが傍らに居れば間違いなく威嚇になるから変な虫なんか寄ってこないわよ?」
「虫って何だよ・・・・・ったく」
「ふふ。そうしていると、ポップ君って本当お母様そっくりなのね――成長したらお父様そっくりになるかとも思ってたんだけど」
「うわ。冗談じゃねぇ。あんな熊そっくりになってたまっかよ」
「そうねぇ。マッスル体型にローブは似合わないわね。騎士達だけでも充分暑苦しいし鬱陶しいし」
「姫さんよ、それ奴等にゃ言うなよ。男泣きするから」
「やぁねぇ。そ―んなこと、言うわけないでしょ?うん、ポップ君はそのままでいいわ。マリンが誂えたローブがよく似会ってるし」
「動き易いにゃ動き易いんだけど、ちっとひらひらしすぎってか、防御面では心許ねぇとこあるけど」
 ぴらっと腕を翳すとローブの裾がふわりと揺れた。薄手の柔らかな生地で造られた衣装はポップの細身によく似合っている。 威厳とか厳しさからは程遠いものの、神秘性や静謐性が醸し出されている。 ポップ生来の性質からいえばそれは大きく離れた印象だが、パプニカ国の使者として各国を回る際には庶民育ちのポップの体裁を整えるのに一役買ってくれていた。 だからこそ、ポップは当人の趣味からすると仰々しすぎると思いながらも素直に袖を通しているわけである。 当然、デザイン・製作を担当したのが美人賢者マリンであるのも断らない理由のひとつであるが。 美人の顔を曇らせるのを良しとするような考え方をポップは持ち合わせてはいなかった。
「その分護符をつければいいじゃない。いい細工物が揃っているのよ。ポップ君の瞳に合わせたやつとか。細工師もはりきっちゃって」
「・・・・・あーなるべくシンプルなのあったら、考えてみるわ。俺、女の子じゃねぇんだから、じゃらじゃら飾ってもしょうがねぇだろ?」
「似合えばいいじゃない」
「そうですね。次の衣装は衣服自体はシンプルに抑えて飾りで華やかさを出してみましょうか」
「きゃーそれいいわねっ!実はもう幾つか仕入れてあるのよっ!絶対ポップ君に似合うって断言できる奴!」
「・・・・・・勘弁してくれよ」
 女性二人が歓声を上げる様にポップはげんなりと溜息をついた。完璧玩具扱いである。
「あ、そうだ。それならいいかも・・」
「姫さま?」
「だから、一回だけなら踊っても良いプランがあるの。お相手はポップ君で」
「それは・・まぁ、一応格好はつきますか」
「でしょ?ただし、私はドレスじゃなくて男装するわ」
「なぁにぃ?んじゃ、俺に女装しろってのか?じょーだんじゃねぇっ!断るっ!んな気色悪い真似できっかよっ!いい笑いモンになるだけだ!隠し芸大会じゃねぇんだぜ?」
「ポップ君にドレス・・・・」
「マリンさんもその気になんねーでくれよ。俺ぁ絶対着ねぇから」
 ふっと何やらイメージが沸いたのかきらりと光ったマリンの瞳から慄くようにポップが距離を置く。スイッチの入った女性程怖いものはないと、身に染みて解っているからだ。
「馬鹿ねぇ。誰もドレスを着ろなんていってないでしょ。今の感じで充分よ。もう少し中性的な感じの衣装だといいんだけど。マリン、今晩までに用意できる?」
「また無茶言うなよ。って今晩?何?パーティあんのか?げっ戻ってくんじゃなかった」
 慌てて逃げ出そうとしたポップの裾をがしりとマリンの手が掴んでいた。その目はかなり―――イっている。
「・・・・・姫さま。御安心下さい。とっておきの、衣装がありますわ。ちょっと外交向きではなく遊び過ぎた思ったのですけれど ・・肩と腰元を露にする感じで足元は短衣タイプにして腰元から薄手ヒダ生地で覆い、動きによって素足が覗くような感じで・・・・」
「あらー悩殺ものねっ!ヒュンケル大丈夫かしら?」
「――なんでそこにヒュンケルの奴が出てくんだよ。大体なんだその衣装は?踊り子じゃねぇだろ?仮にも魔道士長のする格好じゃぁ・・・」
「あ、そうだ。素足って事は足元もポイントよね!ポップ君の足首細いし・・・華奢なアンクレット似合いそうっ!」
「良いですわね。ああ、姫様、私燃えてきました!ちょっとポップ君を拝借させて頂きますね。採寸して微調整しなければっ!」
「ち、ちょっと待ってくれって・・」
 引き止めようとするポップの声はレオナの弾んだ声に虚しく消し殺される。
「許可するわ、マリン。ポップ君は夜までフリーで良いわよ。明日たっぷり働いてくれれば良いから。私も宝物庫を攫ってから後で行くわね」
「か、勝手に決めんなってっ!大体姫さんの衣装はどーすんだぁっ?」
「安心しなさい。こーんなこともあろうかとちゃんと前もって準備していたの」
「・・・・・・前もって準備って・・・確信犯かよ・・・」
「そうと決まれば善は急げです!では、私はこれにて」
「後でね」
「俺は一言もやるなんて言ってねぇぇぇ〜っ!!」
 怒濤の女性陣の突進に勝てる筈などないと言うものだ。ポップは悲鳴混じりに叫びつつ、マリンに腕をつかまれて引きずられていく。
 後には楽しい遊びに御満悦のレオナと、省みられる事もなく置いていかれたポップが持ち帰ってきたカール国からの手土産が虚しく残るばかりであった。
 
 
 
[ date: 2005.05.22 ]
 
 レオナ&ポップ&マリン。マリンさん、壊れた?レオナポップでうっすらほのかにヒュンポ風味?
 この後結局押し切られてポップはレオナと踊り、その後何故だかヒュンケルと踊る羽目となったり。
 ついでに隊長が踊るなら・・っ!と騎士団連中の相手をさせられる受難なポップで(書きませんが)
 
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