秘 密 
 
 
 
 
 
 
 
 書籍を前に難しい顔をしている姫の姿を見るのは珍しい事ではない。
 むしろよく見る光景とも言えるだろう。
 三賢者などと御大層な呼び名を抱いているけれど、実は誰よりこの国で智に秀でているのは我らが姫だ。いや、近頃ではもう一人。
 そろそろ青年と呼んで差し支えない年頃なのだけれど、その見かけの変わらなさは少年のイメージが強い。客人だからと表に出るのを好まなかった彼だけど、内外共にパプニカ国の重鎮の一人として知られている。
 当人がそれを自覚するより先に、姫が(また指示を受けた私達が)内々に根回しした成果と言えよう。 姫曰く、「城は外堀から埋めろって事よ」という事だが、埋められた当人はといえば、「‥・・はめられた」と常々こぼしている。
 
「姫さま?研究書ですか?」
「そうよ。後世に向けてのね」
「それは・・?」
「バーンとの戦いの記録をまとめようと思って。どうも話が大きくなりすぎてない?」
「姫様達は生きた伝説ですから」
「マリンだってその一員よ?」
「姫様、私は自分の分というものを知っていますよ」
「――ま、そのあたりは私が判断する事じゃないわね」
「それでその内容というのはどのように?」
「詳細はおいおい詰めていくつもりだけど、皆の戦い方を残しておきたいのよね。特に魔道に関しては、うちのお国柄上必要でしょ?」
「その場合、彼の協力は必須ですね」
「そうなのよね―」
「・・・・また良からぬ噂してるのか?」
 丁度折り良くそこに噂の主がひょいと顔を出した。
「何が良からぬよ。まるでいつも悪巧みばかりしているみたいじゃない」
「違ったか?」
「違うわ、ポップ君。姫様はいつもではなくて、時々しかしてないわ」
「・・・・・・マリン。フォローになっていないんだけど」
「あ。も、申し訳ありません!」
「臣下は主を知ってんなぁ―」
「うるさいわよ、ポップ君」
 じろりと睨む姫の視線にポップ君は「おー怖」とおどけた態で肩を竦めた。
「全く。そんなに期待されているんならいいわ。ポップ君の協力は必須ね」
「はぁ?何だよ、それ」
「きちんとお願いしようと思っていたけどやめたわ。命令するから従いなさい」
「・・・・・・相変わらずで。それで、何をよ」
「ポップ君が使った魔法と、その効果を記して欲しいの。ポップ君のレベルによって随分と威力は違ったでしょうからそのあたりも。それとオリジナル呪文に関しても詳しい情報が欲しいんだけど」
「俺のオリジナルじゃねーしなぁ。師匠は後に伝えるつもりは無かったみてぇだぜ?」
「それなら、技の名前と効果だけでもいいわ」
「うーん」
「何よ。駄目だって言うの?ケチ臭いわよ、ポップ君」
「ケチってなぁ。そーいうんじゃなくて、さ。平和な世界で攻撃呪文なんて必要ないだろ?大きすぎる破壊力は争乱の火種になりかねねぇ」
「それは、そうかもしれないけれど」
「ま、姫さんには今更だよな。結局のとこそれって最終的には門外不出なんだろ?」
「――――そうよ」
「それだったら、ある程度は協力できっけどな。極大呪文(メドローア)ひとつにしたって伝説に紛らせちまった方が良いと俺は思ってる」
「威力が強大すぎるというの確かね。人の身で大魔王と対等に渡り合える呪文なんて、力を求める者にはたまらない魅力かも」
「複雑な契約が必要なわけじゃねぇけど。むしろ初期呪文だよな。ヒャドとメラが使えればいい。後はセンスの問題」
「そのセンスがあれば、誰でも大魔道士になれるって?」
「そう簡単でもねーぜ?俺だって常にコントロールできてるってわけじゃない。ちっとバランスを崩せば発動できない。特に俺はメラ系の方が得意だから、どうしてもそっちの比重が強くなる。ま、ちっとばかり腕焦がすぐらいで済んでるが、場合によっちゃ自滅するぜ?」
「危なっかしい技ね〜。よく伝授して貰えたわね」
「ん〜、藁でも何でも掴みてぇ状況だったしな。ついでにこっちも必死よ?何しろ一発勝負。使いこなすか自分が消えるか2つに1つ」
「・・・・・・呆れた。そんな事してたの?貴方達!」
「うちの師匠はスパルタ式だからな〜」
「そういう問題じゃないでしょう・・・・」
 疲れた表情で溜息をつく姫の言葉に私も激しく同意だ。全く驚嘆を通りこして一種の畏怖すら彼には感じてしまう。
「生半可な覚悟じゃ使えねぇ荒業中の荒業ってぇ事は認識して貰わねぇとな。興味本位で使おうとする奴が出てきた結果はあんま想像したくねぇかも」
「・・・・・・そうね。そのあたりは情報操作した方が良さそう。それで、問題あるのはそれだけ?」
「どーいう意味だい?」
「ポップ君は嘘をつくのが上手だもの。正直者の癖に策士系って変だけど」
「必要に応じてそーなったわけだ。相棒がダイだったからな〜俺が小賢しくなるしかねぇだろ?」
「それで?」
「・・・・やばい系統は秘めとくつもりだったんだけどな」
「やっぱりね。そういう腹づもりだと思ったわ。広める必要はないかもしれないけど、何が危険か把握しておいた方が危険に近寄らないという考え方もあるわ」
「・・・・ま、敢えて使おうとする奴はそうそういねーと思うけどな。汚ねぇ類の技だし。そーいうのが『禁呪』となるわけだし」
「使ったの?」
「数える程だぜ。その時点で知ってる最も威力のでかい技だったからな。・・・・マリンさんは聞いてて面白くねぇかも」
「――フレイザードね」
「姫様のおかげで傷ひとつ残っていないわ。恐ろしい思いはしたけれど――それはあの時に限る事じゃないし」
「・・・・・・そか。ならいいけど。ただ、あの手の技はやっぱ使わねぇ方が良い。使える力があっても人間の身にはちときつい」
「メラゾーマのまとめ撃ちなんて普通の人間は試したいとも思わないわよ」
「ん。一発で息あがっちまうしな。あんま実用的じゃねぇ」
「本当に、それだけ?」
「それだけだよ」
 躊躇いすらなく微笑む彼に、それ以上の答えを求める事は無駄だった。話すつもりが無いとすれば絶対に話さない。彼はその点頑固だから。
「――わかったわ。『秘密の呪文』という奴ね」
「そう聞くと何か軽っぽく聞こえるから不思議だな。あ、ダイにはオフレコでな」
「・・・・どうして?」
「小難しい話聞いても頭パンクするだけだろ?親友想いって奴だな。ま、作業は協力すっから。ってか、魔法関連は俺の管轄だし、マァム達は基本的に武闘派だしな。んじゃ、そーいう事で」
「あ、ポップ君!」
 引き止める手は空を切り、ひらりと彼は出て行ってしまった。
「・・・・逃げられたわ」
「彼も忙しいですから」
「それだけじゃないわね。あれは、後ろめたい事があるのよ。多分『禁呪』に関して知られて困る類の事がね。」
「問い詰めますか?」
「無理よね。相手はポップ君だもの。いいわ。いつか、話してくれると思うし、少なくとも私には」
「そうですね。姫さまにならば」
「で、その時には」
「その時には?」
「思いっきり怒るのよ」
「―――その時は是非、私の分まで叱ってください」
「勿論よ。マァムやヒュンケル―ダイ君の分まで、とことん怒ってやるんだから」
「そうしてください」
 その決意を口にする姫を、大きく後押しする。
 恐らくは――笑って済ませる話ではないような気がする。それ故、彼は笑って煙に巻こうとするのだろう。
 だから、恐らくは姫だけが――聞きだせる。共犯者のような、あの二人だから。
 
     
 
 
 
 
 
 
 
[ date: 2005.05.20 ]
 
 レオナ&ポップ&マリン。
 プロット書散らしで消化とする筈が微妙な長さとなったのでHTML化。
 
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