鋏 男 
 
 
 
 
 ふと、視線を感じて振向くと魔法使いがじっとこちらを見つめていた。
 
「――んだよ」
「立派なもんだな―と思ってなぁ」
「ふっ、当たり前だ。この俺の逞しき肉体は御覧の通りだっ!」
 賞賛の言葉に気をよくし、ふんっとばかりに腕に力を込めて力拳を作る。もちろん胸筋を煽るように見せ付けるのも忘れない。
 男は何といっても力だ。拳だ。肉体だ。貧相な魔法使いには羨ましくて仕方が無いだろうと得意な気分で見せびらかした。
 っといかん。俺も随分俗物的になったようだ。どうも隊長さんの影響を受けているような気がする。 もう少し謙虚を心がけた方が良いだろう。ハドラー様のように内から滲み出る男らしさのオーラは、誇示せずとも己ずと知れ渡るものだ。
 そんな風に悦に入っていた俺に、奴は笑いを堪えた表情で「違う、違うって」と手を振った。いや、そのまま腹を抱えて口元を抑えた変妙な顔は堪えているとは言えないか。
「あぁ?何が違うってぇ?」
「いや、だからよ。その頭」
「頭ぁ?」
「今更だが、見事な長髪だよなーと思って」
「髪が長くて問題あんのか?」
「ねーよ」
「・・・・・・・・・」
 にやっと笑う顔は幾ら人間の感情に疎い人生経験(人間じゃねぇが)の短い俺とはいえ、充分裏と含みを感じ取れるものだった。
 そう。この男。ポップという名の魔法使いは一筋も二筋もいかないどころか捻って捩って螺旋を巻いている曲者なのである。
 ハドラーさまが最後にその身をかけて救おうとした奴で、シグマの奴もまたこいつの事を随分買っていたようで、確かにすげー奴なのは俺もわかっている。
 ほんの腕を一振りするだけで粉々に砕け散っちまいそうなヤワそうな奴なのに、その細ッこい体にとんでもない力を秘めてやがる。 地上における最強の強度を持つ物質であるオリハルコンの体を持つこの俺を、消滅させることのできる極大呪文の使い手なのだ。
 もっとも、近頃ではその呪文がなくとも勝てる気が全くしねぇ。奴の口が開いたが最後、負けが決まったようなものだからだ。ったく人間って奴はつくづく侮れねぇ。
「それ、闘う時鬱陶しくねぇか?」
「これはハドラーさまの忘れ形見のようなものだ」
 魔法使いの言葉は実は時々感じる事でもあるのだが、それをそうと認めるわけにもいかない。自ら意志を持ち、新たな生命体として生まれ変わった証のようなものだからだ。
「んー、ま、それがあるからヒムとハドラーは似て見えんだよな。うん」
「ハドラー様と言え」
「俺、あいつの部下じゃねーもん。かつては敵同士よ?最後は認め合ったけどな〜。ま、それはともかく、動くのに邪魔なのは確かだろ?縛ってみっか?」
「女じゃあるめーし、格好悪いだろ」
「可愛いリボンつけてやるぜー?」
「いらねーよ」
 にしし、と笑う魔法使いを殴りつけるふりをすると、素早くひょいと避けられた。力は無いがこいつは結構素早い。
「つまんねー反応だなー。あ、わかった禿んのが嫌なんだろ。最初はつるっつるだったもんなー―。つるっつるのぴかぴか」
「誰がハゲだっ!アレは生えてなかっただけだっ!!」
「それをハゲってぇんだよ」
「――ぐっ」
 拳を握り締めるが反論の言葉が浮かんでこない。所詮は口でこいつに勝とうと思うのが間違いだとはわかっているのだが。
「なぁ、全部剃れたぁ言わねぇから、ちっと切ってみねぇか?」
「切らねぇ」
「そう言うなよ。お前、回復呪文効くんだから、髪も伸びるんじゃねぇかって気になってんだ。その長さから伸びたとこは見た事ねぇけど、切ったら伸びるんじゃねぇか?」
「人を実験動物扱いすんじゃねぇっ!」
「魔法使いサマは研究熱心なんだよ。別に痛かねぇからいいだろ?すっきりカットする方が男前もあがるってもんだぜ?」
 男前が上がる、との言葉に少しばかり心がなびきそうになった。いやいや待て待て。こいつの口車に乗ってロクな事になる筈がない。大体――
「――どーやって切るってぇんだ?俺の髪もオリハルコンだぞ?」
「あ、そいつはダイジョーブ♪」
 待ってました!とばかりに、にしゃっと笑った魔法使いがシャキーンッ!と取り出したのは、つやつやと輝く大きな鋏だった。
「これ、ノヴァの習作なんだぜ。何はともあれ魔界工仕込みの業物だ。切れ味は間違いねぇ」
 シャキシャキシャキ、と魔法使いの手の中で小気味良い音を立てて大鋏が開閉する。ものすごく切れ味がよさそうだ。
「いや、だから、俺は・・・・・・・・・・・」
「ノヴァからも頼まれててな―。どれぐらいの強度があるか試して欲しいって。こいつは魔力も込める事ができるから、まずお前の頭でもバッサリ刈れるぜっ!」
「・・・・・・・・・・・・いや」
 だから誰もばっさり刈ってくれなぞとは言っていない。頼んでもねぇ。
「んじゃ、いくぜ?」
「―――ま、待てっ!だから俺は何も―――っ!!」
「さぁって、ポップさまの華麗な鋏テクニックを披露してやんぜ♪」
 蒼くなって(いや顔色は変わねぇけど内心は顔面真っ青という言葉がしっくりくる状態だった)どうにか逃げようとしたのだが、あいつ相手では結局無理な話だった。
 
 
 そうして俺は望んでもいないのにカットモデルとされた。実は内心全部刈られるのでは?とびびりまくっていたのだが、そこまではさすがにされなかった。 が、かなりさっぱりとした髪型にされてしまったと思う。後で聞くと 『スポーツ刈り』 なるものらしい。
 確かにその髪型は動き易いには易いのだが――やはり元の髪型が一番だ。 残念ながらあの時のように一挙に髪が伸びるのは無理のようなので、日々鏡を見ながら早く伸びねぇかな、と願うのが日常となった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ―――――と。
 
 そんなヒムを他所に元凶たるポップはといえば・・・・・・
 
 
 
 
「―――で、これが例のソレでアレなのですね?」
「そうっスよ。ヒムから切った髪です」
「ふーん、むむむむむ・・・・・・。なるほど、なぁーるほど。立派なオリハルコンですねぇ〜」
「でしょ?これだけあれば、色々使えると思いませんか?一部はノヴァに礼でやるつもりなんスけどね」
「ポップ、私にも少しわけて貰えませんか?魔力を込めるのに、最適の素材ですよね〜」
「先生ならいーっスよ。ただし」
「ただし?」
「他言は無用って事で」
 しいっと口元に手を当てて悪戯っぽい表情を浮かべるポップに、師であるアバンはまた同様の悪巧み顔を浮かべる。
「あっーったり前、ですよ。ばれたら大変、でしょう?」
「――です」
 しぃぃっと、わざとらしい素振りで辺りを伺うようにして、似たもの師弟はにんまりと笑みを浮かべ合うのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
[ date: 2005.05.16 ]
 
 ポップ&ヒム。特に意味もなく思い浮かんだ小ネタ。
 
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