恋愛音痴の恋
 
 
 
 
 わかっては、いるんだけど。
 それとこれとは別問題で。
 
 まぁ結局のところはそんな風に言って――逃げていたわけだ。
 
 
 
 
 
「ぐずぐずしていると嫁き遅れちゃうわよっ!」
「ぇっ?」
 突然まくし立てられて反論の言葉が浮かばない。
 レオナは頭が良くてどちらかといえば理性的な質であるけれど、時折こんな風に感情と勢いに任せてくる事がある。
 そういうときは大抵反論も抵抗もできず、なし崩しに巻き込まれるだけだ。
「私、マァムの事好きだし友達だと思っているけど、エイミの気持ちもわかっているから・・・・」
 応援しないわけにもいかないの、と溜め息混じりに言うレオナだけどー面白がっているのよね、単に。
 それはそうだろう。エイミさんの方が付き合いも長いし関わりも強い。そして一途な女性というものは、基本的に応援したくなるものだし。
「私もレオナの事好きよ」
「――あのっねぇ〜」
 あらら。真っ赤になっちゃった。言われ慣れているでしょうに。なんだか可愛い。
「・・・・・・これだから天然は」
 ぶつぶつ怒ったように呟いているけれど本気で怒っているわけじゃない。照れ隠しなのよね。レオナって天邪鬼な所あるから。・・・・そういえばポップもそういう所あるわ。
「あーっもうっ!なんでアタシが遊ばれるのっ?マァムっ!」
「なぁに?」
「ヒュンケルの事好き?」
「好きよ」
 聞かれて考える前に答えている。
 好きか嫌いかならば迷う事はない。
 好きできまり。
「そうよねー。で、ポップ君は?」
 にんまりと笑うレオナに本当ゴシップ好きなんだから、と少し呆れつつも迷わず即答。何故って迷う必要性もないから。
 好きか嫌いか。
 ポップの事をどう思っているかですって?そんなのは決まっている。
「好きよ」
「・・‥即答したわね」
「気にいらないみたいね」
「どちらか悩むぐらいしたっていいじゃない」
「どうして?私は二人とも好きなのに」
「で、二人とも特別じゃない?」
「・・・・・・そうね」
「マァムって欲張りだわ」
「何故?」
「マァムがそんなだから、皆決められないんじゃない。エイミだってメルルだってずっと待ってる」
「それを決めるの私じゃないわ」
「そういうのは卑怯よ」
「そうね。だけど、決めろとか言われて決められるものじゃないでしょう?それに、二人がそう思っているかどうかなんて」
「そんなの見てればわかるじゃない。わからないっていうなら私が聞いてくるわ」
「レオナ」
 そのまま走り出そうとしたレオナの背に声をかける。静かに。一言だけ。
 決して強い言い方ではない。それでも込めた気持ちは伝わった筈だった。
 その証拠にレオナの足がぴたりと縫い付けられたように止まっている。
 じれったいというのはわかる。歯痒いと思う気持ちもわかる。
 だけど、それが遅すぎたとしても、決断したら自分の口で伝えたかった。そして答えを聞きたい。
 あの時、メルルの気持ちをレオナがポップに告げた。
 そうせざるを得ない状況だったけれど、やはり自分の口で伝えたかったです、とメルルが後でこっそり教えてくれた。
「・・・・・・・・・・」
「やめて」
「わかった。でも本当、いいかげん決めて欲しいの。エイミやメルルがかわいそうなのは確かよ」
「わかっているわ」
 言われるまでもなく、よっく、わかっていた。
 自分の卑怯さも、優柔不断さをも。
 
 
 
 
「どーした?しょぼくれた顔して」
「会いたくない時って会っちゃうのね」
 誰にも会いたくない気分だったので、王宮の中でも人気の少ない箇所を選んだのに、何故だか遭遇してしまう。できれば今一番会いたくなかった相手に。
「ん?」
 小さな呟きは運良く聞き取られなかったらしい。首を傾げるポップに聞かないで、と手を振った。
「何でもないから」
「ふーん」
「・・・・・・・・・・・」
 興味の無いような態度で視線を別方向に逸らす。その動作で何となく気づいた。やはり聞こえていたのだ、と。
 ポップはこうしていつでも私が重荷を感じないような行動を取ってくれる。
 いつの間に逆転したのだろう。手のかかる弟のように放っておけなかった彼が、逆に私の方を護ってくれている。
 いや、もう随分と前に、立場は変わっていたのだろう。それに私が気づこうとしなかっただけだ。
「・・・・レオナと喧嘩をしたの。一方的に怒られたんだけど」
「姫さん、機嫌悪いのか?しゃーねぇ、なだめてくっか」
 やれやれ面倒なこった、と文句を呟きながらも足取りは軽い。何のかんのいって、ポップはレオナを好いているから、言葉程には不満は抱いていないのだ。
「仲、良いのね」
「はあ?こっちこそいつも喧嘩ばっかだよ。間にダイがいなきゃ、俺は早晩出奔してんねぇ」
 そんなことを言って、レオナをずっと支えてきたのはポップだった。今レオナと対等に渡りあえるのもポップだけだ。
 レオナはよく頼りないとかこぼすけれど、実は誰より信頼しているのだ。本当に、素直じゃない。
 
「・・・・・・・?」
 何か、奇妙な感じがあった。何か不安を抱くような、気鬱のような、少しばかり心が重い。
「マァム?」
「――何?」
「眉間に皺」
「え?」
 慌てて額を触れると、確かに表情が固い。
「当たられて機嫌の悪さが映ったんか?」
「―――そう、かもしれないわ」
「しょーがねーなぁ。ちっと体動かして発散してきたらどうだ?向こうにゃ伝えとくから」
「そうね。そうするわ。ありがと、ポップ」
「気にすんなって」
 ポップはひらひら手を振って行ってしまった。その背を見送った後、鍛錬に都合の良い場所を探す。
 体を動かしていると、思考がクリアになっていく。単なる運動不足だったのかもしれないと。
 全身から噴出した汗が流れていく。心地良い疲労が体を満たし、何かもやもやした気分はすっかり消えていた。
 
 
 
 
 
[ date: 2005.05.19 ]
 
 自覚する少し前、ぐらい?
 
お気に召しましたら一言どうぞ
 
 
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