別離の日 2
 
 
 
 
 
 うっそうと生い茂る森の中、懐かしい空気を肌に感じる。
 長く離れていた故郷の木々は、記憶に違わず優しい香りを放っていた。
 
 
 
 
「――別に、良いのに・・・・・」
「良くねぇよ。俺が構うの」
 前を歩く逞しいとはお世辞にも言えぬ背にかけた言葉には拗ねたような響きがあった。
 多少細身ではあるものの、その年頃の男性としては平均的であり、また、目に見えるような筋肉として見についていないというだけで別段ポップは貧弱というわけではない。
 けれども、鍛え上げた体を持つマァムに比べればやはり華奢という印象を見る者は持つだろう。その事自体にはマァムも不満は持ってはいない。 ポップの体ぐらいなら自分が担いで運んでみせる――そんな気構えこそがマァムの誇りでもあるのだから。 お姫様のように護られたいわけではない。それよりも、護ってみせる、との気構えの方が強いのだ。 だから心に沸きあがるもやもやとした不安は――気づいてみれば、明らかにわかる薄くなった背に覚える消失の予感だ。
(――駄目。喪う事を考えるなんて後ろ向きだわ。私はポップとの明日をつかみとる為に、選んだのだから)
 マァムは浮かび上がい暗い考えを頭を振って振り切る。そして殊更明るい声を出した。そういうのは、そういえばポップのお得意技だったわね、と思いながら。
 
「もう少しゆっくりしてからで良いのに。いきなり行ったら母さんだって驚くだろうし。それにまだ二人っきりにもなれていないじゃない」
「これから幾らでも持てるだろ?二人きりの時間って奴はさ。何しろ今日から全ての俺の時間はマァムのものなんだからさ」
「それはそうだけど・・・」
「んだよ。俺に『娘さんを下さい』って言わせてくれねぇの?昔っからの夢だったのに」
「言ってくれるんだ?」
「おいおい。俺を何だと思ってるんだよ。逆プロポーズになっちまったけど、マァムを嫁さんに貰うのは俺だぜ?それとも違うっての?」
「うーん、そうねぇ。どちらかというと私的には逆の気分かな?そうだ。母さんに挨拶した後はランカークスに行きましょう。そこで私が今度は『息子さんを私に下さい』って言うわ」
「いやだからそれはずれてねぇか?」
「なぁに?プロポーズの顛末からいっても私がポップを貰いに行く側よね?」
「・・・・・そりゃそうかもしれねーけど・・・・」
 おどけて言った私の言葉にポップが困ったような表情を浮かべる。大国相手に口先一つで渡り合ってきた切れ者の大魔導士の姿はそこにはない。 ただの普通の青年が居るだけだ。ただのポップが居るだけだ。
「一人息子をかっさらうんですもの。きちん御両親に御挨拶したいわ。・・・おじさまに殴られるのは嫌だけど」
「はぁ?んな事すっかよ。他人様のお嬢さんに殴るような親父じゃねぇぜ?」
「他人じゃないわ。家族でしょ?」
「・・・・う・・ぁ、そ、そりゃ、そうだけど・・・」
 照れたように頬を掻くポップの表情がおかしくて思わずくすくすと笑いが漏れる。
「・・・・からかうなよな・・・」
「からかってなんかいないわ。でも大事な一人息子を奪う相手にはお父様も平静ではいられないんじゃない?」
「娘ならともかく放蕩息子じゃなぁ―。むしろ感謝すると思うぜ?こんな馬鹿息子を選んでくれてありがとうってなぁ」
「馬鹿って、ポップが馬鹿なら世に賢者を名乗れる人なんていなくなるわよ?」
「親父にとっちゃ俺は生涯馬鹿息子だよ。そーいうもんだろ?」
「そうかもしれないわね。私がはねっかえり娘と同じ事かな」
「マァムがはねっかえりの一言で済むタマかよ。魔物相手にぎったんばったん素手で伸す女がよ」
「なーんですってぇ?ポップも伸されたいの?」
「うわ、待てって、俺が悪かったって。暴力反対――っ」
「わかればよろしい。そうね。のすのはベッドの上だけで勘弁してあげるわ」
「そりゃサンキュー・・・・・え?」
「・・・・・・・・・・・・・」
 冗談に紛らせた誘惑の一言を言い切ってすたすたと歩き出す。背後でポップがあわあわと慌てている様が手に取るようにわかった。
 何を今更慌てているのやら、である。確かにまだそういう関係には至っていないけれど・・・・・・と敢えて考えると確かに恥ずかしいかもしれない。 お互い恋愛上手というわけでもなく、遊びで手馴れているわけでもなく、少しばかり雰囲気づくりが大変かな?と新妻らしからぬ事を考えるマァムである。
 そんな風に軽口を交えて歩いている間に、見慣れた家へと近づいていった。懐かしい母の待つ家が目の前に見えて、さすがにマァムの涙腺も緩む。
「―――お客さんかい・・・・マァム?」
「ただいま、お母さん」
「本当に、お前かい?・・・元気そうだね・・・あら、ポップ君」
「御無沙汰してます――あの、俺・・・・」
 感極まった母がマァムの身を抱きしめる寸前、その背後で親子の語らいを邪魔しないように控えていたポップの姿に気づいた。 その呼びかけにポップが応えて挨拶しようとした所にマァムが割り込む。

「お婿さんを連れてきたの」
「えぇっ?お前・・・・」
「マ、マァムっ!そりゃ、俺の台詞っ・・・・・」
 どんな挨拶をしようとしていたのか気にならない事もないけれど、凱旋報告な気分のマァムとしてはやはり報告は自分の口からしたかった。 気の抜けたような、少しがっくりとした表情のポップには少し悪いかな、と思ったけれども。
「そ、それじゃぁ、本当に・・・・?」
「・・・・あ、えと・・順番が逆になっちまって格好悪ぃけど・・・・・娘さん、嫁さんに貰う、挨拶に来ました」
「・・・・まぁ・・・まぁ・・・」
 慌てて居住まいを但し、ぺこりと頭を下げるポップ。
 新しい家族の出現を、驚きと嬉しさのない混じった表情で母は笑顔で迎え入れた。
 
 
 
 
 
 
[ date: 2005.05.28 ]
 
・・・このペースでは5話や6話じゃ終わらないか・・・?
 
お気に召しましたら一言どうぞ
 
 
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