もう一つの共犯者達
 
 
 
 
 
 
「何で?どうしてだよ、ポップ!ヒュンケルっ!」
 
 少年が叫ぶ。裏切られた衝撃のままに。哀しみの想いのままに。
 
 
「ま、色々あったんだよ」
「所詮、俺は魔族に育てられたという事だろう」
「そういう意味でいくと、ダイ君も同じという事になりますねぇ」
「――アバン先生。そーいう茶々、入れないで欲しかったッスねぇ。やっぱ、先生は邪魔だったなぁ」
「ポップ!何てこと言うのっ!」
 少女――いや、すでに女性としての成熟さを見せている彼女は叱り付けるように怒鳴った。彼女にとってはいつまでも弟のような存在である彼に対して。 「生憎だけど、私を怒らせようとしても無駄よ。これでも一国の王ですもの。それに貴方の性格は良くわかっているつもり。一度騙されたのが身に染みているから」
 きっと王者の風格を全身から発する彼女は、凛とした表情で言い切った。私を騙せるわけないでしょう?というばかりの顔つきだ。
「パプニカ女王、レオナ。貴女にとって俺はやはり敵なのだ。この状況は迷いを捨ててはくれないか?」
「馬鹿言わないで。私は「赦す」と言った。その言葉に偽りはないわ」
「姫さんはそー言ってもなぁ、国民はそーでもなかったよなぁ」
 軽い口ぶりで割りこんでくるポップは悪戯っぽい表情を浮かべていた。
「もう姫ではないわ。私はパプニカ国唯一にして正当の女王よ」
「了解、姫さん」
 嘲るような口調で笑う。敵対した者に対してはこんなに人の悪い笑みを浮かべるのだと、今更ながらに思い知らされる。
「無駄だと、言った筈よ。貴方達が動く理由なんてただ一つ。そう、一つしかあり得ないのよ」
「レオナ?」
「ダイ君。しっかり目を開いて。心を落ち着けて。答えはいつだって貴方の中にあるわ。彼等は変わった?そう思う?」
「だけど、ポップがこの惨状を引き起こした」
「見事なものよね。さすがはポップ君だわ」
「どうして、褒めるんだよ」
「手際が良いんだもの。本当に、口惜しくなるくらい、良すぎるわ」
「――わかんないよっ、俺、馬鹿だから。いつだって考えるのは、ポップがしてくれた。レオナがしてくれた。先生がしてくれた。俺はただ走っていけば、良かったんだ」
「これからはそーもいかねlだろ?お前さん、国王になるんだぜ?」
「国が滅んでしまえば国王も何もないですよ。矛盾してませんかねぇ、ポップ?」
「ぜーんぜん?大体、元勇者・現勇者・賢者・武道家勢揃い。大魔王を倒したパーティ再結成で勇者は龍の騎士。ただの人間二人なんて勝てるわけねーだろ?」
「貴方は勝てない戦をするんですか?」
「いつだってそうでしたよ、アバン先生」
「貴方はいつも勝ちましたよね」
「勇者が居たからなぁ。今は半死人の剣士が一人だしー」
「悪かったな、役立たずで」
「そーでもないぜ?これまでそれなりに役に立ったよ」
「ならば、良い。ここまで持った甲斐もある」
「いちゃつくのなら他所でやってくれないかしら」
「そーだなぁ。ヒュンケル、後でたっぷり相手してやんぜ」
「楽しみとしよう」
「――皮肉も通じないのね、貴方達」
「そんな事言っている場合じゃないでしょう?」
「しょうがないじゃない。いつもはこれ、ポップ君の役目だったのよ。そんな彼が向こう側となれば、私がそれをするしかないの」
「おやおや、私も居りますよ」
「そうですね、私とアバン先生の二人が揃えば、ポップ君相手でもどうにかなるかしら?」
「うーん、弟子の成長は嬉しいのですが、予想外の成長ぶりですのでねぇ」
「アバン先生も、レオナも、どうしてそんな呑気な事をっ」
「誰も呑気なお喋りをしているわけではないのよ。マァム、目の前に居るのはね、世界で最強の大魔導師なの。 そしてここに居る誰よりも頭の回転が速い希代の大詐欺師で大嘘付きよ」
「詐欺師は酷ぇなぁ」
「それはまぁ否定できんだろう」
「あ、お前が言うか?」
「嘘。偽り。誤魔化し。お手のものよね、ポップ君には。いつだって私達は騙されるのよ。自分を悪人にして、恨まれるように持っていって、そうして陰で傷つくのがポップ君よね。 ヒュンケルもそうだわ。そんなのが格好良いなんて思いこんでいる、大馬鹿者よっ!」
「レオナ、それってどういう」
「ダイ君、ちゃんと考えて。今の状況を見れば一目瞭然よ。世界はどうなっているかしら?恐るべき脅威に対して、皆の心は団結しているわ。 かつて大魔王バーンに対して人々が心を一つにしたように、ね。共通の敵が居れば、人は自ずと手を組むものなの。そうするしかない状況に彼等は追い込んだのよ」
「そんな。何の為に?どれほどの犠牲を伴うのかわかって?」
「わかっていて、よ。だからこそ、マァム。貴女には彼等は何も言わなかった。慈愛の心を持つ貴女だからこそ。そして、真っ先にアバン先生が排除されようとしたのも同じ理由ね。 アバン先生ならば、話さずとも気づいてしまうから。そうでしょう?」
「――」
 答えはない。無表情なヒュンケルはいつもの事。そして笑みを浮かべるポップの顔もまた、本音を覆い隠すのだ。
「もう一人、居るわね。話さずとも察してしまう人が。その純粋な想い故に、彼の心と繋がっている人が」
「はい。わかっていました」
 すいと歩を一歩出したのは、長い黒髪を揺らす清楚な乙女。真実を見極める瞳を持つ巫女であった。
「私は知っていました。いえ、それだけではありません。彼等に協力していたのです。私は裏切っていたのです」
「メルル・・・」
 驚愕の表情を浮かべるマァム。彼女には理解できまい。できぬのが、彼女であるのだ。
「そうでしょうね。私が怒るとすればそこだわ。彼は―ポップ君は、メルルの恋心を利用した」
「私がそれを望んだのです。自ら望んでそうしました。説得など最初から考えていません。私の力を好きに使って欲しかったから」
「悪いな、メルル」
「いいえ。私は幸福でした。ポップさんの為でしたもの」
 微笑を浮かべるメルルの表情は真実幸せそうであった。騙されて利用された愚かな巫女。人は後に彼女をそう評するだろう。 だが、真実は違う。彼女の顔がそれを物語っているではないか。
「わからないわっどういう事なのかっ!」
「ダイ君、貴方も?貴方は、わからなければならないのよ?」
「――俺の、為?」
 躊躇いがちに、だがはっきりとその声は皆の耳に届いた。風に消え事もなく。
「そうですね。ダイ君の為でしょう。それしかありえません」
「ありえないのよね」
「――」
 二人は口を挟まない。ただ距離を保ったまま、見つめていた。彼等のかつての仲間達を。
「一体どうして、何処がダイの為になるというの?」
「わかっている筈です、マァムさん、貴女も。平和になった世界は、戦いを過去のものとしました。失われた命の記憶も、生み出された命の中で薄れていきます。 ですが、恐怖は残っているのです。絶大な力の脅威に曝された恐怖を人は心の奥底に沈めつつも、消す事ができなかった」
「・・・・・・・・・・・」
「今、この世界で最も大きな力を持つのは、ダイさんです。龍の騎士です。大魔王すら撃ち倒し、魔界より凱旋帰還した古の神の力を継ぐ勇者ダイ。 その力は大地を揺るがし、山を崩し、天をも裂く。ダイさんが喪われし国『アルキード王国』の跡継ぎである事は隠していてもいつしか知れ渡っていきました。 神の力を持つ、人に滅ぼされた国の生き残り。その恐るべき力がいつ自分達に向かないと誰が言えますか?」
「ダイがそんな事をするわけないなんて、わかっているじゃないっ」
「それは、彼を知る者の言葉です」
 メルルの言葉は容赦ないほどにきっぱりとしたものだった。
「つまりは、そういう事ですよ。世界はダイ君を排除する方向へと動きつつあった。その事はマァムも気づいていたでしょう。 ポップも女王レオナも随分と尽力しました。だが、その動きは止める事はできなかった。だから、ポップはこんな方法をとったのです。私は後悔していますよ。かつて言った言葉をね」
「先生?」
「パーティは勇者の為にある。それは、自分を殺すという意味ではないんですよ、ポップ」
 静かな瞳は哀しげな色を称えていた。わかっているのだ。師は弟子が何を想って行動したかという事を。それをどうにか止めようとしてきたのだ。
「別に自殺願望じゃないっスよ」
「お前は一度やらかしているがな」
「そーいうお前だって」
「あなた方はどちらも同じですよ。無鉄砲で責任感ばかり強い」
「ただの馬鹿よっ!」
 レオナが叫ぶ。
「何で、そこまでして」
 呆然とマァムが呟く。
「それがポップさんであり、ヒュンケルさんですから」
 静かにメルルが言い切った。
「貧乏籤たぁ、思ってねぇよ」
「そうだな」
 二人は不敵に笑う。その瞳には迷いも後悔も全くない。
「俺、俺はそんな事、望んでなんか・・・っ」
 太陽のような少年は泣けずに泣いていた。
「お前がどう思おうと、関係ねーんだよ。決めるのは俺だ」
「そうだな。俺も誰に言われたわけではない」
「違う道とてあった筈です。誰も傷つけない道は困難であったかもしれないですが、これが最良とは思えませんよ。貴方達を喪ってどれ程私達が傷つくかわかっていて?」
「それでも、」
「ああ」
 
「「『兄弟子』ですから」」
 
 二人の声があわせたように揃う。その言葉の重みに誰もがそれ以上何も言う事ができなかった。
 
 
 
 
 
 カシャン、と何かが割れる。
 
 はっと人々がそちらに意識を取られた。
 メルルの手から放たれた水晶珠が大地に放たれ粉々に砕かれた。
 その音はまるで決別の響きのようであり――
 
 
 
 ゆるりと
 ゆぅるりと
 
 視線が巡る
 
 だが、再びかつて仲間であった二人の青年の姿を捉えようと動いた視線の先には誰も立ってはいなかった
 
 
 
 
 
 
 世界は再び守られた。
 脅威を退けたのは三度立ち上がった勇者。
 しかしその瞳は喜びではなく憂いに満ちている。
 
 喪われた仲間を悼んでか。
 
 
 一人の魔法使いが消え
 一人の戦士が消え
 一人の巫女もまた消えた
 
 
 
 真実を知る者は口を閉ざす。
 
 龍の巫女は表舞台から去り、静かに隠遁の生活に入った。誰が訪問しても会おうとはしない。
 彼女はただ祈り続けた。
 それは人々の世界の平安であろうと、周囲の者達は思っていた。だが、彼女が祈るのは・・・・・・・・・・・・
 
 
 
 ただ二人の人の未来。
 
 銀の髪の戦士と
 闇色の髪の魔法使いと
 彼等二人のその先だけを
 
 祈り続ける。
 
 
 
 巫女の手に水晶珠が持たれる事は二度となかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
[ date: 2005.08.01 ]
 
 共犯者達の別バージョン。
 
 平和の時が流れ、無意識の悪意と拒絶の中に曝されるダイを見つめてきたポップはある決心をした。
 そしてそんなポップを見つめていたヒュンケルもまた、同じ結論を選ぶ。
 力在る者が厭われるのならば、勇者が求められる世界を作り出せば良い、と。
 光ある未来に背を向けて、共犯者二人は笑みすらもって互いの手を握り合わせた。
 
 ・・・・という顛末でしたvv
 実は初期はこれが共犯者シリーズのラストシーン(つまりはBAD END)の予定でしたり。
 
お気に召しましたら一言どうぞ
 
 
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