噂の二人
 
 
 
 
 パプニカ国宮廷魔道士の長ポップと、宮廷騎士団ヒュンケルの交際がいつしか密やかではあるが謳われるようになってい。
 最初は小さな噂でしかなかった。が、有名人の彼等の事、常に誰かの視線が追っている。 そんな彼等の間に流れる空気が噂を否定するものではないと、人々が気づくまでにそう長い時はかからない。
 
「ね、ねぇ、ポップ!ヒュンケルと付き合ってるって本当っ?」
「―――ダイ。扉は静かに閉めろ。お前の力じゃぶっ壊れちまう」
「そ、そんなのどうでも良いよっ!」
「良くねぇっ!お前、修繕費を申請すんのは誰だと思ってんだ?壁やら扉の修復にはホイミは効かねーんだぞ?姫さんにちくちく嫌味言われんだぞ?それを盾にまたどんな無理難題ふっかけられっか」
「……ゴメン」
 レオナの名を出せば覿面だった。このパプニカ国における若き女王のその可憐な外見に似会わぬ豪放とした性格としたたかぶりには定評がある。その最も大きな被害を受けているのがポップであるというのも。
「とにかく座れ」
「うん」
「茶、飲むか?いいのが手に入ったんだ」
「あ、うんありがと。どうせ、俺、違いわかんないけど」
「飲ませ甲斐の無い奴だな。ヒュンケルの奴は気に入っていたぞ」
「そ、そのヒュンケルだよっ!」
「ヒュンケルが?」
「だ、だからっ!ヒュンケルとポップが恋人同士とか愛人関係とか、そんなの嘘だよねっ!」 「ふむ。お前の耳にも入るようになったのか。しかし、ダイ。愛人ってのは、他に本命が居てこそ成り立つ関係だろ?俺にもヒュンケルにもそれは居ないからそのセンは無しな」
「あ、そっか……って、じゃぁ、恋人ってことっ!?」
「それも、どーかなぁ。関係的には愛人に近いかもしんねーなー。恋人ねぇ……ピンとこねーな。しいて言うなら……セフレ?」
「ポッ!セッ!」
「どーどー。落ち着け。ほら、茶でも飲んで」
「――っ」
 目を丸く白黒させるダイの前にカップが差し出される。会話の合間に注がれたそれは、幸いというのか丁度良い具合に冷めていた。
「大体、皆暇だよなぁ。平和になったってコト?他人の下半身事情が気になるってのは、わからんでもねぇけど、そんな世紀の大事件みたいになぁ」
「か、下半身って……ポップぅ…」
「んな泣きそうな面すんなって。おめー何?何でそんなにショック受けてんの?親友に恋人が出来たって喜んでくれねーの?」
「さっき『愛人』って言ったじゃないかっ!体だけって!もしかして、ポップ、ヒュンケルに無理矢理やられたの?」
「……すげーこと、言うのな。全く天然って奴は、これだから。聞いたか?お前、ゴーカン魔扱いされてるぜ、兄弟子さん」
「――それは有難くない呼称だな」
「ヒュッ!」
 茶を飲み干して一息ついていた筈のダイが再びパニックを起こす。勇者として名を馳せたダイではあるが、ヒュンケルの気配に全く気づかなかったらしい。それだけ、動揺していたという事か。
「お疲れ。午後の鍛錬は終了か?」
「ああ、一息つこうと」
「ここは喫茶室じゃね―ぞ」
「お前の入れる茶が飲みたかった。それに、ここが一番落ち着ける」
「褒め言葉にゃ、悪い気はしねーな。お前も口上手くなったじゃん」
「…………」
 二人の会話をダイが呆気に取られた表情で見つめている。
寄れば触れば突っかかっていた(主にポップがヒュンケルに対して)知らなかったダイにしてみれば、こんな風に和やかな会話をする二人を見るのは初めての事なのだ。そして「鍛えられたからな」と苦笑を浮かべるヒュンケルの表情がかつて見た事がない程に柔らかであったという事も、ダイの思考を止める充分な理由となる。
「美味いオレンジが手に入ったんだ。オレンジティーにすっか?」
「絞るのか?」
「いんや。浸すのさ。茶に爽やかな風味が混じって乙なモンだぜ」
「ふむ。どれ」
「――んっ」
 そっと重なる唇はごく自然な触れ合いで、それが日常的に二人の間で行われている事は間違いない。照れもなく戸惑いもなく、ほんの一瞬で離れた二人の間に性的な意味合いはない行為だったのだが、ダイにとっては充分に刺激ある光景だ。
「なるほど。いい味だ」
 ちろり、とヒュンケルの舌が己の唇をなぞるように動く。
「やーらしい言い方だなぁ」
「お望みならば、夜にでも言ってやろう。お前の味が良いのは今更だがな」
「ばーか」
 ドスっとポップの肘鉄がヒュンケルの腹にめり込むが鍛えられた腹筋はものともしない。そのまま腕を抑え、ポップの体を抱きこんだ。
「やめろって、」「そう、焦らすな」「だーれが、焦らしてっかよ。嫌がってんだろーが」「お前の口は始終「嫌」「止めろ」だからな」と傍目に鬱陶しい(レオナあたりならば至極嬉しそうに見物するであろう)光景を前にして、ダイの精神は崩壊寸前であった。
「お、俺っ!用事思い出したからっ!じゃ、じゃぁねっ!」
「『――』」
 飛び上がって立ち上がり、二人の姿をこれ以上を見ないようにしてダイは部屋から飛び出した。取り残されるは剣士と魔導師の二人のみ。
「お子様には刺激が強いってか?」
「そろそろ、お子様という年齢でもなさそうだがな」
「ん―まぁ、レオナはお年頃、だしなぁ。王族の務めとして跡継ぎ問題せっつかれてるらしーし、疎いガキのダイに向かっても色々、なぁ」
「詳しいな」
「お悩み相談所ポップさんはいつでも大人気大盛況よ?」
「…………」
「何、その顰め面。妬いてんの?」
「そうだと言ったらどうする?」
「――そーだなぁ、言葉下手な魔剣士さんは、口八丁で丸め込まれるの好きじゃねぇみたいだし」
「お前が得意過ぎるのだろう」
「そうは言っても、俺ってばパーティの頭脳だし。魔法使いってのは古来よりそーいうもんよ?制限付きの魔力を効率良く使わねーと、非力な魔法使いちゃんは大変なんだよ」
「お前の身は俺が守るから、安心しろ」
「――違うだろ。俺達が守るのは『ダイ(勇者)』の身だ」
「お前を守る事がそれに繋がる。丁度良い」
「なーに、言ってんだか」
 抱きすくめられたままクスクスと笑うポップの息がヒュンケルの咽元を擽る。それは充分な刺激となっていた。
「真ッ昼間からエロい事考えてんなよ?」
「機嫌を取ってくれるんだろう?」
「俺にンな義理あるか。ただでさえ忙しいってのに」
「咽は渇いていないんだ。もう一つの美味いものを馳走してくれ」
「――勝手に喰えよ」
 
 溜息混じりの言葉を了承と取り、ヒュンケルは薄さを増した体を大切そうに抱き上げた。
 
 
 
[ date: 2005.05.05 ]
 
 ヒュンケルポップ。
 
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