タイム・リミット
 
 
 
 
「早いものね」
 
 ほぉと悩まし気に空を見上げるかつてはやんちゃな姫君も、流れた年月と共に眼を見張るような美女へと変貌を遂げていた。
 名実共に国を治める立場にある彼女は女王として、また近隣諸国をまとめる盟主として多忙な日々を送る。その傍らに控えるのはまだ年若き三賢者。美人姉妹と壮健な体格の青年であった。そして、時に背後に、時に名代として彼女の代わりに他国への使者として精力的に働く黒髪の年若き魔法使いがひとり。攻撃魔法・防御魔法・治癒術と多岐に渡る魔法を使いこなす彼は本来ならば賢者―それも大賢者と呼ばれて然るべき存在であるのだが、当人は師の姿勢にちなんで『大魔道士』と呼ばれる事を好む。
 
「年寄り臭いぜ、女王陛下」
「・・・・貴方に言われるとその名に敬意も欠片も感じないわね、大魔道士どの?」
「そりゃねーだろ。これでも精一杯の尊敬と愛情を込めているんだぜ?俺が頭を垂れるたった一人の陛下にはな」
「いつまでも一人ではいられないわ」
「まぁ、周囲は煩いよな。跡継ぎを得て安心したいだろうし」
「だからといって平和ボケしたぼんくら王子の手は取れないわ」
「別に国内の有力貴族が相手でもいいんだろ?寧ろ聖なる王家に他国の血を交えなくて住むと歓迎するだろうな」
 三賢者の一人、アポロあたりを選べば内外的にも誰も文句は言わないだろうぜ、と勝手な進言をする友人をレオナはじろりと睨んだ。
「なーに他人事のように言ってるのよ。あなただって候補の一人・・というより最大最有力候補なんだから」
「俺ぇ?勘弁してくれよぉ」
「あーら。私に不満があるっていうの?」
「おいおい。そんな言葉は口が避けても言えねぇって。俺の方こそ役不足だろ?」
「何を言うのかしら。大賢者の称号を蹴飛ばした大魔道士様が」
「・・・柄じゃねぇし」
「そうね。あんなに頼りなかった助平少年には立派すぎる肩書きよね」
「手厳しいな、レオナは」
「・・・・・・・・・・・」
「お、おい。泣くなよ。俺が泣かしたみたいじゃねーか」
「みたいじゃなくて、そのままよ。そんな風に名前を呼んでくれる相手なんて、ポップ君くらいだもの」
「マァムもいるだろ?」
「・・・・・・ごめんなさい」
「俺の事は気にすんなって。最初からわかってた事だ」
「出産は、来月だったかしら」
「ああ。知らせを聞いたら真っ先に駆けつけたいんだが、いいか?」
「勿論よ。私だって行きたいぐらいだけど、立場上そうもいかないし。辛い所よね、ポップ君」
「だからそいつはとうに腹決めてた事だって。 まぁ平気なわけじゃねぇんだけど、あいつを幸せにできるのはマァムだけだし、マァムが一番いい笑顔を浮かべるのもあいつに対してだけだ」
「私はマァムはポップ君を選ぶと思っていたわ」
「有難うよ」
「お世辞じゃなくて本気よ。私だって―君という存在が居なかったら…」
「俺っていつでも二番目だよな」
「そういう意味じゃなくて…いえ、ごめんなさい。でも、メルルは貴方が一番だわ」
「んー。だな」
「それなのに、どうして?」
「どうしてかな。メルルは可愛いと思う。幸せになって欲しいししたいとも思う。だけど、彼女を伴侶には選べない」
「酷いわね」
「かもなー。レオナだったら選べるんだけど」
「本気?」
「そろそろ限界なんだろ?」
「…………君が帰ってきたら、選ぶと思うわ」
 どちらを、とはレオナは言わなかった。卑怯であるかもしれないが、言葉を濁した。けれどもポップは当然の事のように、それを「ダイ」とした。
 レオナの逃げを許す。ポップだから、許す。そうやって許してくれるのはポップしかいないから、そうやって甘やかしてくれるから、レオナはポップを選んでしまう。
「当然だな」
「いいの?」
「いーんじゃねぇ?ってか、あいつに殴られたら、俺の華奢な体なんてぶっ飛ぶ所じゃねぇなー。そこら辺りは怖ぇんだけど」
「私の方が怒られるんじゃないかしら」
「浮気者って?」
「いいえ。『ポップに手を出した』って」
「・・・・・・・・・・・レオナ、あのなぁ」
「あなたも私もダイ君の物。だから、寄り添い合って待つ。それでいいかしら?」
「ま、そんな所だな。ただ、ひとつ懸念があるんだけど」
「何?」
「俺、一応背は伸びたよな?」
「ええ。立派なものよ。まだ華奢なのは変わらないけど」
「・・・・・・・・・・ここん所、成長が緩やかに止まっている」
「副作用って事?」
「そうかもしれねぇ。そうじゃないかもしれねぇ。竜の騎士の血がどんな作用を加えたのか、未だ未知数だからな」
「だったら丁度良いわ」
「丁度良い?」
「ダイ君がいつ帰ってこれるかわからないんですもの。私が間に合わなくてもポップ君が迎えてくれる」
「・・・・・・そう来たか」
 
 聡明な賢者でもある姫の言葉に、ポップは観念するしかなくなる。「仕方ねぇなぁ」と、やむにやまれぬといった態を取りながら、小さな溜息が漏れた。
 彼が戻ってくるまでこの世界を護ると決めた。彼が大事に想うひとびとを護ると決めた。ならば――選択などとうに決まっているのだ。
 もう一度だけ。ポップは「仕方ねぇよなぁ」と呟きながら、レオナへ手を差し出した。
 
「ごめんなさい」
「謝んないで、いーさ」
「……本当、ごめんなさい。でも、私、もう一人では、待てない…っ」
「わかってる。わかってるよ。な、姫さん。二人なら、もう少しだけ、待てるよな?」
「ポップ、君?」
「……付き合う、から。ぎりぎりまで、な」
「身代わりじゃ、ないわ」
「そっか。なんっか照れ臭ぇけど、『レオナ』って呼ばなきゃいけねぇ?」
「急がなくて良いわ。私も、すぐには『ポップ君』から抜けられそうにないし」
「ゆっくりでいいな?」
「ゆっくりが、いいわ」
 
 視線を合わせ見詰め合う互いの瞳の中に、迷いはない。
 
 一人の年若き女王と
 一人の魔法使いとの
 
 手が重なりあって握り締められた。
 
 
 
[ date: 2005.05.05 ]
 
 レオナポップ。「姫さん」は愛称で。
 
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